第1章
第1章 私は、四年間ラーメン店の店長だった
私は大学卒業後、最初に就職した会社がモスフードサービスでした。
私は大学卒業後、最初に就職した会社がモスフードサービスでした。
ただし、私が配属されたのは、モスバーガーではありません。
同社が展開していた「ちりめん亭」というラーメン店舗でした。
そこで私は、約四年間、店舗の店長として働きました。
朝の仕込み、ピークタイムの厨房、スタッフの教育、クレーム対応、売上管理、常連さんとの何気ない会話。
マーケティングという言葉を使う前に、私はまず、店舗の現場で「お客様がまた来る理由」を身体で覚えました。
飲食店の現場は、きれいごとだけでは回りません。
売上があります。
人件費があります。
仕入れがあります。
スタッフの体調があります。
混雑する時間帯があり、暇な時間帯があり、予想外のクレームがあり、常連さんの一言に救われる日もあります。
店は、数字だけでできているわけではありません。
けれども、数字を無視しても続きません。
その両方を、現場は毎日突きつけてきます。
感性波動という言葉
モスフードサービスの創業者である櫻田慧氏は、「感性波動」という言葉を使っていました。
商品を売るだけではなく、お客様の感性に訴える。
効率だけではなく、人が心地よいと感じる空気を大事にする。
その思想が、モスバーガーを日本のハンバーガーチェーンの中で独自の位置に押し上げました。
私は若い頃、その言葉の意味を完全に理解していたわけではありません。
けれども、店舗の現場に立つ中で、なんとなく感じていたことがあります。
売れる店には、数字だけでは説明できない空気がある。
また来たくなる店には、商品だけではない何かがある。
接客の声のかけ方。
厨房のリズム。
店内の清潔感。
常連さんへの距離感。
忙しい時でも乱れない空気。
そういうものが、少しずつお客様の感性に届いている。
今なら、その感覚を「感性波動」と呼ぶ意味が、少しわかる気がします。
東京からは見えにくい地方店の強さ
それから長い時間が経ち、私は訳あって那須地域に二年間住むことになりました。
東京にいると、地方のお店の成功はなかなか見えません。
都心のマーケティングは、競争、市場規模、広告、立地、認知で説明されることが多い。
もちろん、それらは重要です。
しかし、地方のお店はそれだけでは説明できません。
なぜ、山の中のカフェに人が集まるのか。
なぜ、車でしか行けない場所に、わざわざ人が向かうのか。
なぜ、派手な広告をしていないお店が、長く愛されるのか。
なぜ、二流立地に見える場所が、誰かにとって忘れられない目的地になるのか。
その答えは、競争戦略だけではなく、感性、空気、関係性、地域性、そして世界観の中にありました。
SNS動画とは、本来、その空気を少しだけ外へ運ぶための道具です。
バズらせるための装置ではありません。
小さなお店が、自分たちの感性や日常や世界観を、まだ出会っていない誰かに届けるための、小さな窓です。
この本は、そこから始まります。