第2章
第2章 小さなお店の強さは、競争戦略だけでは説明できない
東京にいると、店の成功は競争戦略で説明されることが多くなります。
東京にいると、店の成功は競争戦略で説明されることが多くなります。
立地がいい。
市場が大きい。
客数が多い。
広告を打てる。
認知が取れる。
競合との差別化ができている。
もちろん、それらは重要です。
特に都心では、駅からの距離、通行量、検索順位、広告の出稿量、口コミ件数、予約導線が売上に直結しやすい。
だから、マーケティングの言葉も自然と競争の言葉になります。
どこで勝つか。
誰に勝つか。
どう差別化するか。
どの市場を取るか。
けれども、那須に住み、実際に多くのお店を訪ね、撮影し、動画を投稿し、反応を見ているうちに、私は少し違う感覚を持つようになりました。
地方のお店の強さは、競争戦略だけでは説明できない。
むしろ、競争という言葉では見落としてしまうものの中に、本当の強さがある。
二流立地に見える場所が、目的地になる
那須には、車でなければ行きにくい場所がたくさんあります。
駅前の一等地ではありません。
大きな商業施設の中でもありません。
歩いて回れる観光地でもありません。
道を一本間違えると、急に森の中に入る。
看板が小さく、駐車場がわかりにくい。
雨の日には少し不便で、冬は寒く、平日は人通りが少ない。
都心の競争戦略だけで見れば、決して有利とは言えない場所です。
けれども、そうした場所に、わざわざ人が向かうことがあります。
車で二十分、三十分かけてでも行きたい。
旅行の途中で少し遠回りしてでも寄りたい。
一度行ったあと、また思い出して訪れたい。
そのとき、お店は単なる店舗ではなく、目的地になります。
ここが、地方店のおもしろさです。
立地が悪いから弱いのではありません。
その場所にしかない空気があれば、二流立地に見える場所が、誰かにとっての一流の目的地になる。
この感覚は、都市型の競争戦略だけではなかなか説明できません。
人は、店ではなく「時間」を覚えている
お客様は、商品だけを覚えているわけではありません。
もちろん、料理がおいしいこと、技術が高いこと、サービスが丁寧なことは大切です。
しかし、何度も思い出される店には、もう少し別の要素があります。
窓際の席に入ってきた午後の光。
湯気の立ち方。
カップを置く音。
店主の声の温度。
忙しいのに、どこか落ち着いている厨房のリズム。
外の景色。
駐車場から入口まで歩く短い時間。
そうした小さな記憶が重なって、「また行きたい」という感覚になります。
人は、店そのものだけでなく、その店で過ごした時間を覚えています。
そしてSNS動画は、この「時間の記憶」を少しだけ運ぶことができます。
料理の写真だけでは伝わらないもの。
メニュー表だけでは伝わらないもの。
Googleマップの星の数だけでは伝わらないもの。
それを、短い動画が伝えることがあります。
だから私は、地方のお店のSNS動画を考えるとき、単に「何を売るか」ではなく、「どんな時間を思い出してもらうか」を考えるべきだと思っています。
競争市場ではなく、共鳴市場
都市型のマーケティングでは、よく「市場」という言葉が使われます。
市場規模。
競合分析。
ターゲット。
ポジショニング。
シェア。
これらは必要な考え方です。
ただ、小さなお店にとって、本当に大切なのは、巨大な市場で勝つことだけではありません。
その店に共鳴する人と、ちゃんと出会うことです。
たとえば、静かなカフェが好きな人がいます。
店主と少し話せるお店が好きな人がいます。
犬と行ける場所を探している人がいます。
一人で落ち着ける席を探している人がいます。
子ども連れでも安心できる店を探している人がいます。
観光地の派手な店ではなく、地元の人が大切にしている場所に行きたい人がいます。
小さなお店がSNS動画で出会うべきなのは、すべての人ではありません。
自分たちの空気に合う人です。
私はこれを、競争市場ではなく、共鳴市場と呼びたいと思います。
共鳴市場は、大きくなくていい。
むしろ、小さくていい。
しかし、深くつながる。
一度来てくれた人が、また来てくれる。
誰かに静かに紹介してくれる。
保存して、旅の予定に入れてくれる。
いつか行きたい場所として、心の中に置いてくれる。
この関係を育てることが、AI時代の小さなお店のSNS動画にとって、とても重要になります。
競争戦略だけでは、空気が抜け落ちる
競争戦略で考えると、どうしても比較しやすいものに目が向きます。
価格。
営業時間。
立地。
メニュー数。
口コミ件数。
検索順位。
フォロワー数。
再生回数。
これらは確かに見やすい指標です。
けれども、お店の魅力は、比較表に入るものだけではありません。
むしろ、人が本当に惹かれる理由は、表にしづらいことが多い。
なんとなく落ち着く。
店主の感じがいい。
空気が合う。
無理に売り込まれない。
季節ごとに思い出す。
あの場所に行くと、自分の呼吸が少し戻る。
こうした感覚は、競争戦略の言葉では扱いにくい。
しかし、実際にはお客様の行動を強く動かしています。
私は、那須で多くのお店を見ながら、この「言葉にしにくいけれど、人を動かしているもの」を何度も感じました。
それが、感性波動であり、世界観であり、空気感であり、Pre-Meaningなのだと思います。
人は、意味になる前に感じています。
説明される前に、なんとなく好きになる。
比較する前に、もう気になっている。
予約する前に、心の中でその場所に行っている。
SNS動画は、その「意味になる前」の感覚に届くことがあります。
小さなお店に必要なのは、勝つことより、伝わること
もちろん、お店は続かなければ意味がありません。
売上も必要です。
利益も必要です。
新規のお客様も必要です。
その現実を無視して、きれいな思想だけを語るつもりはありません。
ただ、小さなお店が大手と同じ土俵で、広告量や投稿量や価格競争で勝とうとすると、消耗します。
大切なのは、勝つことだけではなく、伝わることです。
何を大事にしている店なのか。
誰に来てほしい店なのか。
どんな時間を提供しているのか。
なぜ、この場所で続けているのか。
どんな人が作り、どんな人が通っているのか。
それが伝わると、お客様は単なる消費者ではなくなります。
共鳴する人になります。
ファンになります。
応援者になります。
SNS動画は、この「伝わる」を助ける道具です。
バズらなくてもいい。
ただし、伝わらなければいけない。
小さなお店にとって、SNS動画の本当の役割はここにあります。
地方店は、AI時代に弱くなるのではない
AI時代になると、大きな会社だけが有利になると思われがちです。
資本があり、人材があり、データがあり、広告予算がある会社が、さらに強くなる。
たしかに、その面はあります。
しかし私は、同時に逆の可能性も感じています。
AIによって、一般的な情報や整った文章やきれいな画像は、誰でも作れるようになります。
すると、逆に価値が出るのは、誰にでも作れるものではなくなります。
その店の今日の仕込み。
その地域の光。
その店主の手。
常連さんとの会話。
地元の農家さんの名前。
季節の変化。
長く続けてきた理由。
そうした固有名詞を持つものです。
AIは一般論を作るのが得意です。
しかし、あなたのお店の今日の空気までは、勝手には作れません。
だからこそ、小さなお店はAI時代に弱くなるだけではない。
むしろ、自分たちの固有性をきちんと発信できる店は、これまでより見つけられやすくなる可能性があります。
そのために必要なのが、SNS動画です。
そして、ただ動画を作るだけではなく、Instagram、YouTube、TikTokを、それぞれの役割に合わせて使うことです。
保存される動画。
検討される動画。
衝動を生む動画。
その三つを組み合わせることで、小さなお店は、競争ではなく共鳴の導線を作ることができます。
次の章では、AI時代に小さなお店が何を武器にすべきかを、もう少し具体的に考えていきます。