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はじめに

はじめに

本書は、観光地論ではない。

地方創生論でもない。SNSマーケティング論でもない。

本書は、「なぜ人はその場所を忘れないのか」という問いから始まる。

私は約二年間、那須地域をフィールドとして過ごした。那須町、那須塩原市、大田原市、そしてその周辺地域である。最初から研究をするつもりだったわけではない。息子の進学がきっかけで、東京と那須を行き来する生活が始まった。

しかし結果として、その二年間は私の人生の中でも最も長く、最も濃密なフィールドワークになった。

毎日車で走った。動画を撮った。店主と話した。カフェへ行き、パン屋へ行き、ラーメンを食べ、温泉へ入り、イベントへ参加した。

YouTube・Instagram・TikTokを中心に、900本を超える動画を制作した。その過程で、100店舗を超える店主と出会った。

リビングストン。SUDA COFFEE。Cafe Facile。らーめんたかはし。クローバーボヌール。焼き菓子蕾。那須どうぶつ王国。

それぞれに、まったく異なる空気があった。

最初、私はそれを単なる店舗の個性だと思っていた。しかし、何度も同じ場所へ通い、何度も同じ店主と話し、何度も同じお客様を見ているうちに、ある疑問が生まれた。

なぜ人は、同じ場所へ戻るのだろう。

もっと便利な店はある。もっと安い店もある。もっと大きな店もある。もっと有名な店もある。それでも、人は戻ってくる。

私はその違和感を、何度も感じた。そしてその違和感こそが、本書の出発点になった。

本書は、一つの仮説を提示する試みである。完成した理論ではない。那須という一地域での観察に基づく、仮説の途中経過である。

それでも、その観察から見えてきたものを、できる限り誠実に記録しておきたいと思う。