第3章
第三章 既存研究との対話
Place Attachment・Third Place・Experience Economy
3-1 Place Attachment研究
欧米の場所研究において、最も広く知られる概念の一つがPlace Attachmentである。Scannell & Gifford(2010)は、Place Attachmentを「人・場所・心理的プロセス」の三者関係として整理し、場所への愛着が人の幸福感や行動に影響することを示した。
これらの研究が明らかにしてきたことは重要である。人は、景色を覚えている。匂いを覚えている。音を覚えている。会話を覚えている。そして、その記憶が再訪を生む。
しかし、私はそこに一つの違和感を覚えた。既存研究の多くは、アンケートによって愛着を測定している。しかし愛着は、保存したこと、調べたこと、訪れたこと——その行動の痕跡そのものの中に現れているのではないかと思った。
Save → Plan → Impulseの実測は、その仮説に基づいている。
3-2 Third Place論
Oldenburg(1989)が提唱したThird Placeは、家でも職場でもない「第三の場所」を指す。那須の多くの個人店は、この定義に近い機能を持っている。特にカフェや喫茶店は、地元の常連と遠方の旅行者が同じ空間で時間を過ごす場所になっている。
ただし、観光記憶圏という概念は、Third Placeとは異なるスケールを扱う。個別の店舗の機能ではなく、地域全体が持つ集合的な記憶の場としての性格を問題にしているからである。
3-3 Experience Economy
Pine & Gilmore(1998)は、経済の進化を商品経済→サービス経済→経験経済という段階で整理した。私が問いたいのは、「なぜその体験は記憶になるのか」である。体験が記憶になる条件は何か。記憶になった体験が再訪を生む仕組みはどこにあるか。これが、観光記憶圏という仮説の核心にある問いである。