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第5章

第5章 Instagram・YouTube・TikTokは、全部やった方がいい

小さなお店がSNS動画を始めるとき、よくある考え方があります。

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三つのSNSは、同じ動画置き場ではない

小さなお店がSNS動画を始めるとき、よくある考え方があります。

「Instagramだけでいいのではないか」

「TikTokは若い人向けだから、うちには関係ないのではないか」

「YouTubeは大変そうだから、後回しでいいのではないか」

この感覚は、よくわかります。

店主は忙しい。

仕込みがある。

接客がある。

掃除がある。

スタッフ管理がある。

そこにSNS動画まで入ってくる。

だから、できればひとつに絞りたい。

しかし、なすぱらTVを通して数百本規模で投稿し、YouTube、Instagram、TikTokを並行して観測していくと、三つのSNSは単なる「投稿先の違い」ではないことが見えてきました。

三つのSNSは、見ている人が違う。

見ている気分が違う。

見たあとに起きる行動が違う。

そして何より、

同じ那須の動画であっても、各プラットフォームで反応する人間の層がはっきり違っていたのです。

これは、小さなお店にとって非常に重要です。

なぜなら、お店に来る人は一種類ではないからです。

今すぐ来る人。

いつか行きたい人。

旅行前に調べている人。

家族旅行の行き先を決める人。

カップルで週末の予定を探す人。

ひとりで落ち着ける場所を探す人。

地元の人。

観光客。

若い人。

購買力のある大人。

これらの人たちは、同じSNS上に均等に存在しているわけではありません。

だから、小さなお店ほど、ひとつのSNSだけで勝負しない方がいい。

ただし、三つを同じように使うのではありません。

それぞれの役割を分けるのです。

YouTubeは「検討する人」に届く

なすぱらTVの初期25日間の観測では、YouTube Shortsの中心は25歳から44歳の男性で、男性比率は70.7%でした。

これは、とても象徴的な数字です。

YouTubeは、単に若者が暇つぶしで見る場所ではありません。

少なくとも那須地域の観測では、YouTubeは「旅行先を調べる人」「車で行く場所を検討する人」「失敗したくない人」に届きやすい媒体でした。

那須は、車移動の地域です。

駅前を歩けば次々に店が見つかる都市型観光地ではありません。

目的地と目的地の距離がある。

駐車場が気になる。

道がわかりにくい。

お店の外観を事前に見たい。

混雑しているのか知りたい。

子ども連れでも大丈夫か知りたい。

男性が家族旅行やドライブの下調べをしている場合、YouTubeの動画はかなり相性がいい。

これは、単なる「再生数」の話ではありません。

YouTubeでは、動画を見たあとに、

「ここは行けそうだ」

「駐車場がありそうだ」

「家族を連れて行っても大丈夫そうだ」

「思っていたよりちゃんとしている」

という安心感が生まれやすい。

つまりYouTubeは、Planの媒体です。

計画する人に届く。

検討している人の不安を減らす。

そして、訪問前の最後の確認に使われる。

小さなお店がYouTubeを使うなら、派手な演出よりも、実用的な安心感が大切です。

外観。

入口。

駐車場。

席の雰囲気。

メニューの見え方。

注文の流れ。

店内の音。

実際にどんな人が来ているのか。

これらを淡々と見せるだけで、見る人の中に「行けるかもしれない」という判断材料が増えていきます。

YouTubeは、動画の中でお店を説明する場所というより、訪問前の不安を消す場所なのです。

Instagramは「保存する人」に届く

一方で、Instagramはまったく違う反応を見せました。

60日間の観測では、Instagramは25歳から44歳の女性が72.8%と、非常に厚い層を形成しました。

那須の場合、この層は旅行計画や週末のお出かけ先を探す層と重なります。

特に関東近郊から那須へ来る人たちにとって、Instagramは「いつか行きたい場所」を保存する媒体として機能しました。

ここで重要なのは、Instagramは「今すぐ行く」だけではないということです。

むしろ、

「ここ、よさそう」

「今度那須に行くときに寄りたい」

「友達に送っておこう」

「家族旅行の候補に入れておこう」

という、まだ行動になる前の感情を受け止める場所でした。

Instagramで強かったのは、説明しすぎる動画ではありません。

空気が伝わる動画。

光がきれいな動画。

料理だけでなく、席や窓や余白が見える動画。

お店の世界観が一瞬で伝わる動画。

店主のこだわりが押しつけではなく滲む動画。

そういう動画が、保存につながりやすかった。

保存とは、非常に面白い行動です。

いいねは一瞬の反応です。

保存は未来の自分へのメモです。

「いま行く」とは限らない。

しかし、「いつか行きたい」と思ったから保存する。

この「いつか行きたい」が、小さなお店にとっては非常に大事です。

なぜなら地域店舗は、毎日大量の新規客を集めるビジネスではないからです。

思い出されること。

候補に残ること。

旅程に入ること。

誰かに送られること。

この積み重ねが、来店につながります。

Instagramは、Saveの媒体です。

保存される場所。

世界観が未来の行動として残る場所。

小さなお店がInstagramを使うなら、単なる宣伝ではなく「保存したくなる空気」を作る必要があります。

TikTokは「入口」と「衝動」を作る

TikTokは、さらに違う媒体でした。

初期観測では、TikTokは18歳から34歳の若年層が中心で、特に10代から20代の反応が強く出ました。

テーマによっては18歳から25歳前後の男女がかなりバランスよく入り、InstagramやYouTubeとは違う「まだ那須に強い関心を持っていない人」にまで届く感覚がありました。

TikTokの特徴は、検索前の人に届くことです。

YouTubeは、すでに調べている人に強い。

Instagramは、行きたい場所を保存している人に強い。

しかしTikTokは、まだ探していない人の前に突然現れる。

ここが大きい。

「那須に行こう」と思っていなかった人が、動画を見て、

「え、ここどこ?」

「行ってみたい」

「今度行こう」

「近いなら行けるかも」

と反応する。

これは、Impulseです。

衝動です。

もちろん、TikTokの反応は軽い。

すべてが来店につながるわけではありません。

再生数が伸びても、すぐに売上になるとは限らない。

しかし、TikTokには新しい入口を作る力があります。

特に地域店舗にとって、若い層に「地域名」そのものを知ってもらう意味は大きい。

那須を知らなかった人。

那須に興味がなかった人。

観光地としての那須しか知らなかった人。

そういう人に、カフェ、自然、店主、空気、風景、日常を届ける。

これは未来のファンづくりです。

TikTokは、今すぐの売上だけで判断してはいけません。

むしろ、地域の入口を広げる媒体として見るべきです。

三つを分けて考えると、SNS動画は急にわかりやすくなる

三つのSNSを、私は次のように整理しています。

Instagram
  25〜44歳女性が厚い
  旅行・カフェ・世界観に反応
  保存、共有、未来の来店候補
  役割:Save

YouTube
  25〜44歳男性が厚い
  45歳以上を含む実用・検討層にも届く
  駐車場、距離、安心感、事前確認
  役割:Plan

TikTok
  10代〜20代、18〜34歳の若年層が中心
  テーマによって男女とも入りやすい
  偶然の発見、衝動、地域認知
  役割:Impulse

この整理ができると、SNS動画は急にわかりやすくなります。

Instagramには、保存したくなる世界観を出す。

YouTubeには、安心して計画できる情報を出す。

TikTokには、最初の入口になる驚きや空気を出す。

同じ動画を三つに投稿してもかまいません。

ただし、同じ意味で投稿してはいけません。

Instagramでは「保存されるか」を見る。

YouTubeでは「検討材料になっているか」を見る。

TikTokでは「新しい人に届いているか」を見る。

見るべき数字が違うのです。

那須モデルとして見えてきたこと

この観測は、単なる個人の感想で終わりませんでした。

なすぱらTVでは、2025年9月12日から11月12日までの60日間に、468本の地域SNS動画を投稿しました。

総インプレッションは300万を超えました。

この実地観測をもとに、私は Save → Plan → Impulse というモデルを整理しました。

Instagramは保存を生む。

YouTubeは計画を支える。

TikTokは衝動を起こす。

この三つが連続すると、短尺動画は単なる宣伝ではなく、地域への実際の移動を生み出す導線になります。

このモデルは、Human-Computer Interaction International 2026、つまりHCII 2026に採択された論文、

「Save → Plan → Impulse: A Cross-Platform Sequential Model of Short-Form Video Influence on Tourist Mobility in Car-Centric Rural Regions」

として、国際的なHCIの場で発表されることになりました。

これは、私にとって非常に大きな意味を持っています。

なぜなら、これは東京発の広告理論ではないからです。

大手広告代理店の机上のSNS論でもない。

都市部のインフルエンサー論でもない。

那須という、車移動が前提で、店舗と店舗の距離があり、観光客も地元客も混ざる地域で、実際に動画を作り、投稿し、反応を観測し、地域の空気を浴びながら生まれた理論です。

つまり、那須発の地域SNS動画理論です。

地方の小さなお店が、AI時代にどのように見つけられ、保存され、検討され、衝動的に訪問されるのか。

その流れを、世界のHCI研究の文脈に接続できた。

私は、ここに大きな希望を感じています。

世界に認められたから偉い、という話ではない

ただし、ここで誤解してほしくないことがあります。

HCIIに採択されたから、この理論が偉いと言いたいわけではありません。

そうではなく、地方の現場で起きていることが、世界の研究文脈でも説明可能な時代になった、ということが重要なのです。

これまで地方のお店の魅力は、しばしば「なんとなくいい」で終わっていました。

あのお店は雰囲気がいい。

あの店主は感じがいい。

あの場所は落ち着く。

あの地域はまた行きたくなる。

でも、それをマーケティングやSNSの理論として説明する言葉が少なかった。

だから、結局、

再生数。

フォロワー数。

広告費。

クーポン。

ランキング。

という、都市型のわかりやすい指標に回収されてしまった。

しかし、那須で起きていたことは、それだけではありません。

人は、動画の中の空気を見ていた。

光を見ていた。

店主の手元を見ていた。

駐車場の安心感を見ていた。

地域の時間の流れを見ていた。

「ここに行く自分」を想像していた。

つまり、人は情報だけでなく、文脈を見ていたのです。

この文脈を、AI時代のSNS動画論として言語化すること。

それが、この本でやりたいことです。

お店側が今日からやるべきこと

では、現場のお店は何をすればいいのか。

難しく考える必要はありません。

まず、三つのSNSに同じ動画を置いてみる。

そのうえで、反応の意味を分けて見る。

Instagramでは、保存数を見る。

YouTubeでは、視聴維持とコメント、検索流入を見る。

TikTokでは、新規視聴者とプロフィール遷移を見る。

そして、次のように役割を決めます。

Instagramに出すもの
  店内の空気
  料理の美しさ
  季節感
  世界観
  保存したくなる情報

YouTubeに出すもの
  アクセス
  駐車場
  店内の広さ
  メニューの選び方
  初めてでも不安が減る情報

TikTokに出すもの
  一瞬で伝わる魅力
  意外性
  地域の風景
  料理の動き
  店主の人柄

これだけでも十分です。

SNS動画は、全部を完璧にやる必要はありません。

しかし、三つのSNSをひとつのものとして見てはいけません。

それぞれに、別の人間がいる。

別の気分がある。

別の行動がある。

その違いを知ることが、AI時代のSNS動画の第一歩です。

この章の結論

Instagram、YouTube、TikTokは、全部やった方がいい。

ただし、全部で同じことをするのではありません。

Instagramは、未来の来店候補として保存される場所。

YouTubeは、訪問前の不安を減らし、計画を支える場所。

TikTokは、まだ知らない人との最初の出会いを作る場所。

この三つがつながると、

小さなお店の動画は、単なる宣伝ではなくなります。

それは、

保存され、

検討され、

衝動を生み、

実際の来店へとつながる、

地域の感性導線になります。

そしてこの流れは、那須の現場から生まれ、HCII 2026で世界に向けて発信される理論になりました。

小さなお店の空気は、世界に届きうる。

私は、この事実を、この本の中できちんと残しておきたいのです。