第4章
第4章 バズ動画とファン動画は、まったく別物である
SNS動画を始めると、多くの人が最初に気にするのは再生数です。
SNS動画を始めると、多くの人が最初に気にするのは再生数です。
何回見られたのか。
どれだけ「いいね」がついたのか。
フォロワーは増えたのか。
誰かにシェアされたのか。
数字はわかりやすい。
そして、数字が伸びると嬉しい。
これは自然なことです。
私自身も、動画を投稿している以上、数字を見ないわけではありません。
伸びた動画があれば、やはり理由を考えます。
なぜこの動画が見られたのか。
なぜ保存されたのか。
なぜコメントが来たのか。
ただ、900本以上動画を作ってきて、私はかなり強く思うようになりました。
小さなお店にとって、バズ動画とファン動画は、まったく別物です。
この違いを理解しないままSNSを運用すると、お店はすぐに疲れてしまいます。
バズは悪ではない
最初に誤解のないように書いておきます。
バズは悪ではありません。
動画が多くの人に届くことは、チャンスです。
知らなかった人に知ってもらえる。
遠くの人にも届く。
新しい層が入ってくる。
話題になる。
取材や問い合わせにつながることもある。
特にTikTokでは、思いがけない動画が一気に広がることがあります。
なすぱらTVでも、ある動画が想定以上に伸びたことがありました。
それは確かに、新しい入口になります。
問題は、バズそのものではありません。
問題は、バズを目的にしてしまうことです。
バズを目的にすると、動画の判断基準が「広く刺さるかどうか」になります。
もっと強い言葉にしよう。
もっと派手にしよう。
もっと驚かせよう。
もっと極端にしよう。
もっと短く、もっと速く、もっと刺激的にしよう。
そうしているうちに、店の空気が薄くなることがあります。
本来の常連さんが好きだった静けさが消える。
店主が大事にしていた丁寧さが見えにくくなる。
その店らしさより、SNSで伸びそうな形が優先される。
この状態は危険です。
バズによって一時的に知られても、店の世界観が崩れれば、長く続く関係にはなりません。
ファン動画とは何か
ファン動画とは、すでに来てくれた人、これから来る可能性のある人、店の空気に合う人に向けて、「また行きたい」「いつか行きたい」「この店を覚えておきたい」という感情を育てる動画です。
再生数は、必ずしも大きくなくていい。
数百回でもいい。
数千回でも十分なことがあります。
大切なのは、その動画を見た人が、店との関係を少し深めることです。
たとえば、常連さんが見て、
「あ、今週もちゃんとやっている」
と思う。
一度来たことがある人が見て、
「また行きたいな」
と思う。
まだ来たことがない人が見て、
「ここ、なんだか自分に合いそうだ」
と思う。
旅行の予定を立てている人が見て、
「保存しておこう」
と思う。
これがファン動画の力です。
バズ動画は、一瞬で広がる波です。
ファン動画は、細く長く続く川です。
小さなお店にとって大事なのは、この細い流れを切らさないことです。
バズ動画とファン動画の違い
整理すると、バズ動画とファン動画は、目的も作り方も違います。
| 観点 | バズ動画 | ファン動画 |
| --- | --- | --- |
| 目的 | 大勢の知らない人に届く | 本来つながるべき人との関係を育てる |
| 主な指標 | 再生数・シェア数・フォロワー増 | 保存数・プロフィールアクセス・再訪・口コミ |
| 内容 | 意外性・衝撃・トレンド・強いフック | 日常・人柄・仕込み・空気・こだわり |
| 時間軸 | 一瞬で伸びる | 少しずつ積み重なる |
| 向いている媒体 | TikTokと相性が良い | Instagram・YouTubeと相性が良い |
| リスク | 店の世界観が崩れることがある | 短期的には数字が小さく見える |
| 本質 | 認知の爆発 | 関係の蓄積 |
この表で一番大事なのは、優劣ではありません。
役割が違うということです。
バズ動画も必要です。
ただし、バズだけでは店は育ちません。
ファン動画も必要です。
ただし、ファン動画だけでは新しい入口が弱くなる場合があります。
だからこそ、Instagram、YouTube、TikTokを全部やった方がいいという話になります。
媒体ごとに役割が違うからです。
Instagramは「保存される空気」を育てる
Instagramで大事なのは、保存です。
もちろん「いいね」も嬉しい。
フォロワーも大事です。
しかし、飲食店や地域店舗にとって、保存はかなり重要な指標です。
保存とは、「今すぐではないけれど、後で見返したい」という意思です。
それは、未来の来店予約のようなものです。
「今度那須に行くときに寄りたい」
「友達と行く候補に入れたい」
「この雰囲気、覚えておきたい」
そういう感情が保存につながります。
なすぱらTVの観測でも、InstagramではSave行動が強く出ました。
特に、世界観が正確に伝わる動画、空気感がある動画、行く前の想像がしやすい動画は保存されやすい。
だからInstagramでは、無理に大声で売り込まない方がいい場合があります。
説明しすぎない。
余白を残す。
空間を見せる。
席を見せる。
光を見せる。
料理だけでなく、その料理を食べる時間を見せる。
Instagramは、店の空気を保存してもらう場所です。
YouTubeは「検討される安心」を育てる
YouTubeは、Instagramとは違います。
YouTubeは検索されます。
見返されます。
比較されます。
少し長く説明できます。
特に地方のお店や観光地では、YouTubeの役割はかなり重要です。
なぜなら、地方では移動の不安があるからです。
駐車場はあるのか。
子ども連れでも大丈夫か。
混雑しているのか。
予約は必要か。
駅から遠いのか。
雨の日でも行けるのか。
近くに他のスポットはあるのか。
こうした不安を解消するのは、短い雰囲気動画だけでは難しい。
YouTubeは、Planの媒体です。
つまり、実際に行く前に調べる場所です。
なすぱらTVの観測でも、YouTubeではルート、距離、比較、計画に関する反応が出やすい傾向がありました。
だからYouTubeでは、ファン動画でありながら、少し実用情報を入れていい。
外観。
駐車場。
入口。
店内の席。
注文方法。
おすすめの時間帯。
周辺スポット。
店主の考え。
こうした情報が、来店前の安心につながります。
YouTubeは、店の信頼を育てる場所です。
TikTokは「入口」と「衝動」を作る
TikTokは、偶然の出会いが強い媒体です。
見ようと思って検索したわけではない。
でも流れてきた。
なんとなく見た。
気になった。
行きたくなった。
この偶然性が、TikTokの強さです。
なすぱらTVの観測でも、TikTokではImpulse、つまり衝動的な反応が強く出ました。
「今から行きます」
「さっき行ってきました」
「これどこですか」
「近いから行ってみたい」
そういう反応です。
ただし、TikTokでバズったからといって、そのまま常連化するとは限りません。
TikTokは入口です。
衝動を作る媒体です。
だからこそ、TikTokで広がった人を、Instagramの保存やYouTubeの検討へつなげる必要があります。
TikTokだけで終わらせない。
Instagramで覚えてもらう。
YouTubeで安心してもらう。
Googleマップで実際に来てもらう。
この流れが大切です。
バズの後に、何が残るか
動画がバズったときに、私はいつも考えます。
このバズの後に、何が残るのか。
フォロワーが増えるかもしれない。
プロフィールアクセスが増えるかもしれない。
一時的にお客様が増えるかもしれない。
それはありがたいことです。
しかし、それだけで終わるなら、波が過ぎた後に何も残りません。
大切なのは、バズの後に、店の理解が深まる導線があるかです。
Instagramのプロフィールは整っているか。
Googleマップの情報は正しいか。
YouTubeに詳しい動画があるか。
公式サイトに店の思想やメニューが書かれているか。
FAQで不安に答えているか。
口コミへの返信があるか。
バズ動画は入口です。
入口の先に、店を理解できる道がなければ、人は通り過ぎてしまいます。
これは、GEOの考え方にもつながります。
AI時代には、動画だけでなく、地図、口コミ、公式サイト、SNS、FAQ、写真、記事が横断的に読まれる。
だから、バズの後に何が残るかは、ますます重要になります。
ファン動画は、店の体温を保つ
ファン動画は、派手ではありません。
毎週の仕込み。
雨の日の店内。
季節のメニュー。
店主の一言。
常連さんに向けたお礼。
新しい花を飾ったこと。
小さな改善。
こうした動画は、爆発的には伸びないかもしれません。
けれども、店の体温を保ちます。
SNSは、放っておくと冷たくなります。
投稿が止まると、人は少しずつ忘れていく。
しかし、週に一本でも、その店らしい動画が流れてくると、
「あ、まだちゃんとやっている」
「今度行こう」
「この季節になったらまた行きたい」
と思い出してもらえます。
ファン動画は、店の存在を静かに灯し続けるものです。
現場では、どちらも必要
ここまで読むと、「ではバズ動画はいらないのか」と思うかもしれません。
そうではありません。
現場では、どちらも必要です。
ただし、比率が大事です。
小さなお店が毎回バズを狙う必要はありません。
むしろ、基本はファン動画です。
そのうえで、ときどき入口を広げる動画を作る。
私の感覚では、最初のうちは次のような比率で十分です。
ファン動画が7割。
入口動画が2割。
バズ狙いの実験が1割。
このくらいでいい。
たとえば、
毎週の仕込みやメニュー紹介を続ける。
月に一度、少し広がりやすい地域ネタや季節ネタを出す。
たまに、TikTok向けに短く強いフックの動画を試す。
この程度で十分です。
大事なのは、店の世界観を壊さない範囲で実験することです。
「伸びた動画」より「残った感情」を見る
SNSでは、つい伸びた動画を正解だと思ってしまいます。
しかし、小さなお店では、伸びた動画よりも、残った感情を見るべきです。
その動画を見た人は、何を感じたのか。
保存したのか。
プロフィールを見たのか。
Googleマップを開いたのか。
コメントで質問したのか。
店に来たときに「動画見ました」と言ったのか。
常連さんが反応したのか。
遠くの人が「いつか行きたい」と言ったのか。
これらは、単なる再生数よりも重要です。
バズは、見られた量です。
ファン化は、残った感情です。
お店に必要なのは、最終的には後者です。
この章の結論
バズ動画とファン動画は、まったく別物です。
バズ動画は入口を作ります。
ファン動画は関係を育てます。
バズ動画は広げます。
ファン動画は深めます。
バズ動画は一瞬の波です。
ファン動画は細く長く流れる川です。
小さなお店は、バズを否定する必要はありません。
ただし、バズだけを追ってはいけません。
自分たちの店に合う人に、店の空気が伝わり、保存され、思い出され、また来てもらう。
そのためにSNS動画を使う。
これが、AI時代の小さなお店にとって、もっとも健全なSNS動画の考え方だと思います。
次の章では、Instagram、YouTube、TikTokをなぜ全部やった方がいいのかを、Save → Plan → Impulse の前段として整理します。